大蛇峰と船石   三重県熊野市 



 大蛇峰船石は、丸みを帯びた優しそうな印象の岩場で、正式な地名ともなっている「船石」と言う名称とは感覚的に多少のズレを感じるものです。
これは、その形状に照らして命名されたものではなく、古来からの熊野灘での沿岸漁業を営む漁師達の航海の目印としての大切な山であるところからの名称であるとの、地元関係者からの説明をいただいております。

 また、その指呼の間にあります「えぼし岩」は抜群の絶景を誇るビューポイントでありますが、平安時代初期、当時の第51代平城天皇の命を受け、征夷大将軍坂上田村麻呂が熊野地方の海賊退治を行う際、この岩の上で跪座伏臥し神仏に祈願したおりに、天女が舞い降りてきて秘策を授けられたという伝説の場所でもあります。
当時の海賊とはその名の通り、鬼と呼ばれていた単純な盗賊集団で、熊野水軍として名を馳せた一族の出現は、更に400年程過ぎた平安時代末期になるようです。
平安時代末期、律令制度のもとでの貴族支配の力が衰え、武家豪族が実効支配力を高めるなか、源平合戦のおりには源氏に傭兵として出陣したり、南北朝の諍いには南朝にお味方したりと、海軍力を持った地方豪族として歴史に残る活躍はあまりにも有名ですが、坂上田村麻呂の鬼退治としての伝説はそれより遥か以前の歴史の中の出来事のようです。

 大蛇峰(687.1m)は紀伊半島の山としては低山でもあり、ほとんど無名で登山道も整備されているとは言えず、訪れる登山愛好者もまれだったのですが、近年になり比較的来訪者も増え、地元登山愛好会などによって登山道の手入れもなされつつあります。
これはその支尾根上にある、えぼし岩(541m)からの絶景と、近年の登山熱によるもののようですが、まだまだ一般登山者を受け入れない秘境の山と言えます。

 登山時期としては春秋はもとより快適ですが、盛夏には低山の故の暑さが気になるところですが、ほとんど樹林帯のなかの登高となりますので、意外に不快感は少ないようです。
また、冬期は山中に積雪を見ることはまずなく、三重県・奈良県の中部山岳地帯が風雪にみまわれている時期にも、南紀の陽光に平穏な山行が望めます。
歴史と美景に満たされた、この南紀熊野地方の山の魅力を一般登山愛好者の方々にも広く知っていただければ幸いです。

   
       大蛇峰からの大峰山系遠望              えぼし岩ピークからは熊野灘の絶景     

●大蛇峰登山道の案内 (’0212月現在)

 大蛇峰の一般登山道は、八丁峠や新鹿からのものもあるが、ここでは最も入山者の多い船石からのものを紹介します。
しかし、一般登山道とは言っても登路の不明瞭な部分も多少残っており、現地の地理不案内な登山者だけでの入山はひかえた方が無難です。

 国道42号線、佐田坂の船石バス停のある広い駐車場所を出発点とします。
ここの標高は約200mですので、大蛇峰(687.1m)までは480mほどの登高で90分から120分の登山時間となります。
駐車場所から国道を下り、大ヘアピンカーブの手前でコンクリートの坂道を登り、登山道入り口の標識を確認します。
植林の中を少し進み、船石の岩場へ直進する道を見送り左手の植林の中のきれいな登山道を行く。
船石川支流の右岸につけられた気持ちの良い道から、支枝の小谷を二回横断したところで登山道は大蛇峰への直登コースと、えぼし岩への近道のフカギリのコルへの道に分かれる。
新しい標識のあるこの分岐点からは、ハイキング気分も終わりで登山道も狭くなり本格的な登りとなる。

 フカギリコースは、えぼし岩への近道でしばらくはゆるいナメを右手にして気持ちよく歩く。船石川支流がナメからガレ谷へと変化するあたりで植林帯への道にかわり、廃屋と炭焼き跡を左手にしてフカギリのコル(470m)へ抜け出します。罠檻が放置されているコルからは整備の良い縦走路に合流。

 大蛇峰直登コースは、急登の連続する尾根の直進路ですが踏み跡は比較的わかりやすいものです。とことん尾根の真ん中を登りつめると、顕著なピークに達するが見通しはきかない植林帯のまっただ中。少々下り登りなおして行くと、登山道はやや左へ山腹を巻くようになる。だが、この道はやがて不明瞭となり消失してしまうので、道が左へ巻くように感じた時点で眼前の尾根の真ん中あたりへ突っ込むように行く。すぐに明瞭な踏み跡が現れるので、不安は少ない。
ひたすら直登するうちに右手に白い露岩が現れ視界が開ける。熊野灘とえぼし岩が望め、気分の良い休憩場所にはうってつけのポイントとなっている。
さらに踏み跡をたどるとまた右手に露岩が現れるが、傾斜がきついのであまり近づくのは危険。やがて急登にあきあきしてきた頃、縦走路に合流できほっとする。縦走路左手すぐに大蛇峰の頂上があり、心安らぐ眺めが良い。
 
 しかし、大蛇峰登山の値打ちはこの最高地点ではなく、えぼし岩からの絶景とそれへの縦走路にあることは疑う余地がない。
頂上での休憩もそこそこに、えぼし岩への縦走路に向かう。今までの急登の苦労も忘れさせてくれる、雰囲気抜群の尾根道を下る。この縦走路の整備は近年になりかなり行き届いてきたので、コースを見失うことはない。
下り道から再び少し登り、もう一度下ると縦走路最低鞍部のフカギリのコルに到着する。ここからは帰路に利用したいフカギリコースに下れる。
コルから少し登り大岩の右手を通過すると、あっという間にえぼし岩に到着する。岩の上へは右手からまわり込み、はしごが取り付けられているので容易に立つことができる。大蛇峰頂上から30分から45分の近場の距離で、ここからの眺めは言葉での説明は無用のものと感じられます。
えぼし岩の上は平らで、少人数であればお弁当をひろげながらゆっくりでき、いつまでも立ち去りがたい至上の場所と言えます。   

  

      


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