千石嵓 リアルコンスタントの開拓  2003年~2004年 

  

奈良県、三重県にまたがる台高山脈の大台ヶ原に源を発する東ノ川流域を主とする深い渓谷帯は、多くの魅力的な大岩壁を有するものとして相当年以前より岳人にはあまねく知られており、意欲ある先人開拓者の活躍の舞台ともなってきた。
その最上流部に位置し比較的入山が容易な「千石嵓」も多くのルートが拓かれてきたが、今回の新たなラインの開拓報告を行うことは、登攀者としての満足感とともに、「理想のルート」としては未だ不足感が否めず、内心忸怩たる思いも大きい。
千石尾根の南面に幅広く展開している千石嵓の岩壁は、左ルンゼと大凹角上部周辺がもっとも顕著な様相で目立つもので、左ルンゼからの「上部山旅ルート」あるいは「バラばかりじゃないさルート」がもっとも合理的で自然なラインと思えるが、ブッシュの処理と内面登攀を含む内容のためか登攀者が少ない。
現代では、自然のルートファインティングをまったく無視し、山の中に強引にインドアクライミングをとってつけたようなルートが人気のようである。
この際、岩登りの本質にかかわる点について言及しておけば、「ルート開拓」の開拓という文字の意味は、パイオニアワークでありフロンティアスピリットのはずである。
未知の事象と対峙して、自分の能力とその情熱でのみ決着をつけようとする行為そのものが重要であり、結果をあらかじめ考えての岩壁開拓なぞ、真の登攀者の態度とは思われない。現代の登攀者が、自らの行為を数字やグレードに置き換えてしまわなければ価値がないと考える風潮は、まことに愚かなことである。
況や、山の中で工事現場でもあるまいに、トップロープで電動ドリルをふりまわして、ルート開拓とは笑止。そのような行為は「ルート作製」と称するのが妥当であろう。
技術的進歩と精神的退歩というのは簡単であるが、登攀者あるいは登山者としてのもっとも大事なものは、たんなる電気信号に変換可能な数字や記号であろうはずはない。

開拓は、2003年の夏期から秋期にかけての4回の日帰り作業を経て、20031123日の合同登攀で下部岩壁をトレースし、200464 ,617,116,1116日の日帰り作業の合計9日間で完登したものである。
5ピッチ目の後半部分の開拓は、川内誠一,杉野信介,山内教史の3名で行われ、それ以外を杉野信介の単独登攀による。

12ピッチ330mのルートとなったが、中央バンドなどではっきりと3分割され、継続した垂直のトリップでの高度感とその緊張感は望めない。
前進はすべてフリーで行われたが、プロテクションボルト設置時にフックやナッツ類を使用して体勢の保持を行った。
アンダークーリングスカイフックとクラックンナップのチョイ掛けでバランスを維持するために、ほとんどハンマーのバックスウィングがとれないなかでの苦しい長時間労働となった。
この山域の古代堆積層である硬砂岩の堅さは格別で、キリの耐久硬度との兼ね合いもあり、力まかせにハンマーを振るっても意味はなく、掌中にごく微妙な岩質の変化を感じ取りながら神経を集中させる作業となった。1本のボルトを埋め込むにも10本近いキリを要したものもあり、結果として右肘に重度の変形性関節炎を招来して開拓期間が長引くこととなった。

全体としてのプロテクションは、ボルト以外では個人差が大きいが、このルートでの必要概略を記入した。また、設定ボルトには一部ハンガーの動くものがあるが、既製のメッキボルトを3㎜ほど長いステンレスボルトと交換した影響で底あたりしているもので、当面の実害は少ないはずである。
ルートの核心は、5ピッチ目の「ピピントラバース」、8ピッチ目抜け口の「草付きトラバース」、そして最終脱出口の「ペリッツァーリフィニッシュ」の3カ所であるが、緊張感は全体に平均して継続する。クラックの部分に打ち込んだプロテクションボルトもあるが、カム・ナッツ類使用の基本的な登攀となる。

このルートを、開拓者の情熱の結果としてとらえる事のできる登攀者には登りがいのあるものとなろうが、チョンボ棒を持ち込んだり、落石をおこすようなゲレンデクライマーの立ち入る場所ではない。
山のなかでは登攀者にマニュアルなぞまったく不要である。自分の目で見て、自分の心で感じ、自分の頭で考え、自分で行動する者こそ真の登攀者の姿であろう。

ルート名の「リアルコンスタント」は、アプネアコンスタントの王道を追究した、ウンベルト・ペリッツァーリの精神性に感銘をうけてのものであり、最終章のフィニッシュはまさしく自力浮上を意味している。  


ルート解説       

 1P  40m  
安全地帯より少し下り左ルンゼルートを登るが、落石の被害を最も受けやすい場所なので迅速な行動が必要である。
凹角左の壁際に寄り小木で確保する。既製ルートのポイントでも確保できるが、上部からの落石には要注意である。


 2P  30m  5.10c
小岩頭に立ち上がり堅く快適なフェースを登る。
傾斜の落ちたところから右手へトラバースし、さらに直上すると確保点となる。
ここまで来ると、落石危険地帯の中心部からはずれた感じで一安心であるが、以後は自分が落石をおこさないことが絶対責任となる。
プロテクションはボルト5本。

 3P  20m  5.10b
フェースを直上、バンドを左トラバースしてクラックへ。
手の切れそうなしっかりとしたクラックで第1ハングを抜け第2ハング下へ。
プロテクションはボルト3本、カム類の3インチ以下を34個。

 4P  15m  5.11a
第2ハングは頭上左手から強引に突破するが、抜け口の小さな木が救いの神であるので、続登者は痛めないように願いたい。
その後の前傾気味のフェースは、細密な観察と思いきった動作が必要であるがおもしろい。
プロテクションはボルト6本。

 5P  35m  5.10d
下部岩壁の核心部である「ピピントラバース」に突入するが、極端に屈曲するピッチなのでロープの流れに要注意である。右手へのトラバースは、すぐそこに大スタンスが見えているので飛び移りたい衝動に駆られるが、心臓に良くないのでやめておいたほうが無難である。
大スタンスから右上のフレークへ。そして左上へと折り返すように登る。ここは少しもろい部分もあるがボルトは多い。
さらに左トラバースをつづけると、スタンスも大きくなってきて容易な直上フェースとなるが、乾燥状態の悪いときなどは注意が必要である。重くなってきたロープを引きずって行き、尾根上の大木で確保する。

プロテクションはボルト9本。

 6P  20m
歩いて中部岩壁の見える位置へ移動する。

 7P  30m  5.8
中部岩壁のクラックへのトラバースから始まる。ここは大小の不安定な岩が多く、下部の登攀者を直撃することになるので、絶対に落石をおこしてはならない。自信のない者はここから先へは進入禁止である。頭上の不規則なワイドクラックは外部スタンスも多い。
プロテクションはボルト2本、カム類の大きめのもの。

 8P  45m  5.9
同じようなワイドクラックがしばらくつづくがやがて消滅する。
ここから草付き気味のフェースを少し登り、右手の中央バンドへのトラバースとなるが、やっかいな草付きでノープロ同様なので慎重に行く。
プロテクションはボルト
1本、カム・ナッツ類の4インチ以下。

 9P  15m  5.6
中央バンドの木で確保し、小ピナクル状の上に出てクラックに合流する。

 10P  20m  5.9
快適なクラックはすぐに終わり、右上へブッシュまじりの細いクラックを追いかけて行く。
フェース登りとなるが、小さめのカムやワイヤーストッパー類を右上クラックに使用する。
プロテクションはボルト1本、カム3インチ、小カム・ナッツ類。

 11P  25m  5.10c
右手の大凹角の草付きを少し登ると、眼前の垂壁と最終オーバーハング帯に黒々と食い込むワイドクラックとチムニーが現れる。
ワイドクラックの入り口と出口附近にボルトを打ち込んだが、不安であれば5インチ程度の特大カムの持参を推奨する。
抜け口に安定したようなチョックストーンが見えるが、警戒を要する。上から確認すると、くさび止めのようにチムニーに落ち込んでいる様子がわかる。
右手のチムニーの洞穴が確保点で一息つける。
プロテクションはボルト2本、カム類の大きめのもの。

 12P  35m  5.10a
陰気ではあるが容易なチムニーは、スタンスも多く快適サイズのクラックがつづいているが、突然に行き止まりとなる。
ルートは最終ハング帯に左上ランぺという脱出口が用意されている。
ランぺ出口からさらに左手のブッシュの凹角を松の木を目指して直上すると、稜線の広場に直接はい上がることができ、すべての束縛から解放される。
プロテクションはボルト2本、カム・ナッツ類の3インチ以下。


             
                              取り付きから見上げる

          
                 下部岩壁                       第1ハング

      
                第2ハング                        ピピントラバース

        
        ピピントラバース部分を横から撮影                 上部岩壁


 ルート図  REAL CONSTANTE 12P 330m

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